- 言葉による呪いの言葉の危険は、結局は、より甚大な形で実際的な危害として発言者自身に返っていく。
- 呪いの言葉を口にすることの危険性は、イスラームに限らず、さまざまに指摘されてもいる。
- それにもかかわらず、「ワイルン」や「タッバ」は啓示として下され、願望文・祈祷文として解され、それを暗記することが奨励され、暗記した子供は褒められる。
- 暗記するべきが汚い言葉だなどいうのは違和感である。
- 「滅ぼされてしまえ」などと言ってはいけないならなおさらであろう。
- それならば、礼拝をおこなうために、意味もわからず、あるいは知らされないまま暗記した方がよいのであろうか。
- 意味を問わずに聖典を暗記することでメッセージを受け取ったことになるのであろうか。
- 皆様のご意見をお聴かせください。
誰かに向かって、
「滅ぼされてしまえ」なんて言ってはいけない。
地獄行きを宣告するようなこと誰だって言われたくない。
それだけに、聖典クルアーンの「中傷者章」の最初の言葉、「ワイルン ويل (災いあれ)」に対して、「棕櫚章」「タッバットゥヤダーアビーラハビン تبت يدا أبي رهب (アブー・ラハブの両手など滅んでしまえ)」と同様のあるいはそれ以上の違和感を覚えてしまう。
いずれも他人を呪う言葉だからである。
「人を呪わば穴二つ」ではなかったのか。
なぜそんな言葉を、しかも願望文と呼ばれる形式で読ませるのか。ムハンマド(彼の上に祈りと平安あれ)にだけならともかくも、クルアーンは誰もが読める、アッラーの御言葉でもある。
そのアッラーの最後の御使いであるムハンマドは、タイトルに示したように「「その人々は滅ぼされてしまえ」などと言ってはいけない」という言葉も残してくれている。
その言葉が引き起こす、相手方の破壊行為が、よりひどく、苛しいことになるからである。
言葉による呪いの言葉の危険は、結局は、より甚大な形で実際的な危害として発言者自身に返っていく。
呪いの言葉を口にすることの危険性は、イスラームに限らず、さまざまに指摘されてもいる。
それにもかかわらず、「ワイルン」や「タッバ」は啓示として下され、願望文・祈祷文として解され、それを暗記することが奨励され、暗記した子供は褒められる。
暗記するべきが汚い言葉だなどいうのは違和感である。
「滅ぼされてしまえ」などと言ってはいけないならなおさらであろう。
それならば、礼拝をおこなうために、意味もわからず、あるいは知らされないまま暗記した方がよいのであろうか。
意味を問わずに聖典を暗記することでメッセージを受け取ったことになるのであろうか。
皆様のご意見をお聴かせください。
ところで、 この根拠になっているムハンマド(彼の上にアッラーの祈りと平安あれ)の言葉は、ほんの一言でもあるので、その言葉を訳してみよう。
إِذَا قَالَ الرَّجُلُ: هَلَكَ النَّاسُ فَهُوَ أَهْلَكُهُمْ
إِذَا もしも
قَالَ 言った
الرَّجُلُ その男が
: (そのあとに発言の内容を示す時に使われるコロン)
هَلَكَ 滅んでしまえ
النَّاسُ その人々は
فَهُوَ すると、それは
ここまでのところは、頭から訳していけばいい
「もしも、その男が「その人々は滅んでしまえ」と言ったならば、それは、アハラクフムである」ってことなのである。
では、「アハラクフム」とは?
أَهْلَكُهُمْ それは、彼らという人称代名詞とアハラクという言葉が合わさったもの
أَهْلَكُ + هُمْ
アハラク + フム
アラビヤ語を少し勉強したことのある人ならば、أهلك が動詞の完了形ではないことはわかるはず。
したがって、この言葉の訳は「(みじめに)滅びた」のように完了形的にはならない。
完了形動詞に、彼(هو)という人称代名詞の直後に置かれるのは極めて例外的であることからもわかる。そもそもこの هو は、人ではなく、彼の言った言葉を指すと考えられる。つまり、「それは」「それが」の意味。
動詞ではないのだとすれば?
أَفْعَلُ は何の形でしたでしょうか?
最上級、比較級を示す形でした。
これはアハラカという4形動詞、「破滅させる、破壊する」から派生している最上級あるいは比較級の意味を持つ名詞、あるいは形容詞であると考えられる。
「最も、あるいは、よりひどく破壊すること」
それに、「彼ら」が付けられているので、この場合は、
「最も、あるいは、よりひどく彼らが破壊すること」
أهلك という見出し語では辞書には見つけられないかもしれないけれど、
彼らが行なう破壊行為は、自分の言葉以上に、あるいは、それとは比べ物がないくらいひどいことになるという意味を有していることになる。
以上を仮にまとめておくと、
「もしも、男が「その人々は滅んでしまえ」と言ったならば、それは(あなたが口にした以上の)彼らのひどい破壊行為になる」
その結果として、彼自身が(みじめに)滅びたということが生じるかもしれないが、ムハンマドさんは、もっとひどい破壊を被ることになるとは言ってはいても、破壊されたとまでは言っていない。
ちょっと踏み込んだ話になるが、
そのときのムハンマドさんの話を聞いていたアブー・フライラは、アハラカと言ったのかアハラクと言ったのかわからなかったとしているので、もう一つの可能性「アハラカ」についても見ておこう。
その場合には、アハラカは動詞で、4形本来の使役の意味が強く、「彼らを破壊する」ではなく「彼らに破壊させる」と解することができ、
「彼らを破壊者にしてしまう」ということになる。
イブン・ハッジャージの解説によれば、語尾をダンマ(「ウ」)で読むのか、ファトハ(「ア」)で読むのかは、前者、つまり「アハラク」と読むのが注釈学者の一致した見解。
なお、アハラカを「ウフリク」と読むとムハンマドさんが、破壊行為を行うということになるけれど、「滅ぼされてしまえ」と言うなと命じている本人が、破壊行為に及ぶというのは考えにくい。
そこには、ムハンマドさんが、「われが彼らを滅ぼすであろう」というような仕返しのニュアンスはなじまない。
もしもそういう日本語の解説に出会ったら、どうぞお気を付けを。
■アラビヤ語原文とその解説は以下の通り
(2623) حَدَّثَنَا عَبْدُ اللهِ بْنُ مَسْلَمَةَ بْنِ قَعْنَبٍ، حَدَّثَنَا حَمَّادُ بْنُ سَلَمَةَ، عَنْ سُهَيْلِ بْنِ أَبِي صَالِحٍ، عَنْ أَبِيهِ، عَنْ أَبِي هُرَيْرَةَ، قَالَ: قَالَ رَسُولُ اللهِ صَلَّى اللهُ عَلَيْهِ وَسَلَّمَ: ح وَحَدَّثَنَا يَحْيَى بْنُ يَحْيَى، قَالَ: قَرَأْتُ عَلَى مَالِكٍ، عَنْ سُهَيْلِ بْنِ أَبِي صَالِحٍ، عَنْ أَبِيهِ، عَنْ أَبِي هُرَيْرَةَ أَنَّ رَسُولَ اللهِ صَلَّى اللهُ عَلَيْهِ وَسَلَّمَ، قَالَ: ” §إِذَا قَالَ الرَّجُلُ: هَلَكَ النَّاسُ فَهُوَ أَهْلَكُهُمْ “ قَالَ أَبُو إِسْحَاقَ: لَا أَدْرِي، أَهْلَكَهُمْ بِالنَّصْبِ، أَوْ أَهْلَكُهُمْ بِالرَّفْعِ.
فهرس الكتاب 45 – كتاب البر والصلة والآداب 41 – باب النهي عن قول هلك الناس
■日本語の参考文献
『日訳サヒーフ・ムスリム』第3巻、日本ムスリム協会、2001年、特に557頁以下
W. Wright『アラビヤ語文典』(上・下)後藤三男訳、後藤書房、1987年。
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